「CATIA Network」掲載記事

CATIAを販売するダッソーシステムズ(株)が、年4回発行する機関誌「CATIA Network」2001年6月号に、当社のCAD/CAMシステムが紹介されました。


CATIAソリューションページ

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CASE STUDY
株式会社 戸田レーシング
CATIAを活用して高品質、高信頼性のレース用自動車部品を開発・設計・製造するコンストラクター
CATIAパワーでクルマの夢をカタチにする

株式会社戸田レーシングはレース専用の自動車部品およびエンジンの研究開発から設計・製造、販売を手がけるコンストラクターである。
主要製品は、トータルなレース用エンジンを始め、レース用のピストン、カムシャフト、クラッチ、ショックアブソーバーなど性能を直接左右するシビアな部品である。対応する車も、フォーミュラカーから量産車を改造したGTカー、ジムカーナなど幅が広い。さらに、自社製品を使用した、レース向けのトータルなチューニングも手がけている。
社長の戸田幸男氏自身が元レーサーであり、引退後もF3カーのエンジン開発だけでなく、自らチームを率いてレースに参戦するなど、実践経験によって培われたノウハウが製品づくりに生かされている。
ここでは、その技術とノウハウをさらに強化し、設計・開発プロセスおよび加工・製作プロセスの効率化と製品品質の向上を実現する源となったCATIAの活用についてご紹介する。

CATIA導入のきっかけ

1971年に戸田レーシングを設立。その後、エンジンの開発やメンテナンス、またシャーシの開発を手がけながらレースに参戦していたが、1982年にF2レース用のBMWエンジンのメンテナンスを担当することになった。BMWのエンジンは、つくりが国産のエンジンと格段に異なり、戸田社長はその精度や設計品質の高さに感嘆した。「我々もいいエンジンをつくる必要性を痛感しました。それにはコンピュータを使って、設計から加工までやるしかないと考えました」(代表取締役戸田幸男氏)。

手作業による技をCAD/CAMで標準化

エンジンの性能を左右する重要な要素のひとつに、シリンダヘッドの吸排気ポートの形状設計がある。
ポートの切削は、従来は熟練の作業者が専用の工具を使用し、手作業によってまさに神業的に加工していたが、作業者による品質のバラつきや、同じ作業者が加工した部品でも、精度のバラつきは避けられなかった。
例えば、同じ作業者が加工した1台目のエンジンで300馬力の性能が出たとしても、同じ加工をして2台目のエンジンが300馬力になるという保証はない。作業者が変わればなおさらである。
工作機械で加工する部分は精度が一定の範囲に収まるが、燃焼室と吸排気ポートの部分については、微妙な精度の違いでもエンジンの性能が大きく変わってしまう。
これを解決するため、戸田社長は3次元CAD(CATIA)でポートの形状をモデリングし、そのモデルからNC加工用のデータを作成して、加工機で処理することを考えた。この方法なら人為的なバラつきはゼロになり、一定の品質の部品をつくることができる。
また、吸排気ポートの形状は独特なもので、ポート長、テーパー角度、スロート径および形状、バルブ形状等のトータルバランスによって空気の流量が変化し、エンジン性能・エンジン特性が大幅に変わる。
CATIAの導入以前は、手作業による加工とフローテスターによる空気の流量計測を繰り返して、エンジンの性能を最大限に引き出す形状を模索してきた。そうして蓄積されたノウハウは、貴重な財産である。
「CATIAの導入には、私たちが培ってきた技術とノウハウをデータ化して、標準化するという目的もありました」(戸田社長)。
現在は、CATIAで作成したポートの形状からCATIA V5でNCデータを作成し、3軸NC加工機を使用し、特殊なボールエンドミル(アンダーカットに対応)で仕上げている。これにより、高精度で誤差のほとんどない品質を実現している。
このことは、CATIAを導入した一番大きな効果でもある。

導入に際しては慎重に検討

戸田社長によると、ソフトや機械(コンピュータも含む)を新規導入する場合、さまざまな製品を比較検討するため、決断するまで3〜4年かかるそうである。
「CADソフトでも、コンピュータでも、最終的に生き残れるソフトは何か、ベンダーはどこか、どういう特徴があり、どのような仕事に向いているかを広範囲かつ綿密に調査して導入の判断をします」(戸田社長)。
ベンダーの将来性は、従来のデータ資産の継続利用、あるいは別製品に移行せざるを得なくなるという非効率を避ける上でも重要である。
CADの導入検討は1986年ごろから始めていた。当時CATIAは、RS6100との組み合わせで1億円以上しており、その価格に驚いたが、高嶺の花と思いながらも機能やアーキテクチャーを見てCATIAに心をひかれた。
ミッドレンジの製品からローエンドの製品までいろいろ試用して検討したが、やはり戸田社長の要求を満たすCADはなかった。当時、戸田レーシングと関係があった国内大手の自動車メーカーがCATIAを使用しており、それを知った戸田社長はCATIAなら間違いないと確信した。
「検討していた頃は、知り合いの事務所にお邪魔して見せてもらったり、展示会などで触ってみたり、試用版を試してみたりして、とにかくありとあらゆる製品を試しました」(戸田社長)。

ついにCATIA V3R2を初期導入

その後、RS6000版のCATIAが発表され、価格も機能もRS6100版とは大きく変わり、CATIAが現実味を帯びてきた。さらに約1年間にわたり、CAD製品の検討は続いたが、内心はCATIAに決めていたという。
そして1991年12月、戸田社長念願のCATIA(V3R2)が導入された。「その当時、本当に町工場の形態でやっている私たちには、規模からしても普通に考えたらCATIAのようなハイエンドなCADは必要なかったかもしれません。それでもやはり良いソフト、最高の機能を備えたソフトで開発・設計をしたかったので、思い切ってCATIAを導入しました」(戸田社長)。
これ以降、開発・設計のほぼすべてをCATIAでこなすようになった。
CATIA V3の導入以後は、1996年5月にV3からV4R1への移行、さらに2000年12月にV5R4に移行して現在に至っている。

CATlA V3R2導入直後いきなり実設計に

写真2のミッションは、戸田社長がCATIAで設計した製品の第1号である。CATIA V3の初期導入後わずか3ヵ月というスピードで開発・設計・製造を完了した。単品の小物に関してはCATIAで設計を開始していたが、アセンブリ全体としてはこれが初めてだった。
この短期決戦には少し仔細がある。戸田レーシングは当初、エンジンの開発だけを行う予定だったが、ミッション担当のメーカーの都合でミッションの開発・設計も担当することになった。レース本番までは約3ヵ月しか時間がない。
ところが、鋳型用の木型製作を依頼していたメーカーの事情で、木型(実際には樹脂で作成)も自社製作を余儀なくされた(エンジンの開発は終了していた)。
急速CATIA V3でのモデリングを開始し、3軸NC加工機で鋳物の雄型となる
樹脂を加工した。「ファソテックさん(CATIAビジネスパートナー)の講習は受けていましたが、まだCATIA V3を使い始めたばかりで、しかも3次元モデリングは初めて。さらに加工までですから、正直慌てましたね。金属加工用の機械での樹脂加工も大変でした」(戸田社長)。
結局、レースの期日に間に合わせることができ、レース初投入のエンジンにもかかわらず、快挙といえる成果を上げた。
「エンジン関連の部品は、ソリッドでの設計が適しています。重量、体積などすべてCATIA上で計算でき、解析も可能です。その点、CATIAを選択して間違いなかったと思います」(戸田社長)。

キネマティクス・シミュレーションは大きな効果

戸田レーシングでは、CATIA V5のキネマティクスオプションを導入しているが、これがカムシャフトの開発設計に威力を発揮していると、戸田社長は絶賛している。
CATIAでモデリングしたカムシャフト周辺部品の機構を定義し、キネマティクス・シミュレーションを実行して動的な解析を行い、動弁角度などの最適なプロフィールを決める。そのデータからNCデータを生成し、ネットワークでCNCカム研磨機に送り、カムシャフトを加工するというプロセスがすべてCATIAの環境でできるのである。
「この機能をいちばん頻繁に活用しています。微妙なタイミングを決める解析プロセスが簡単に、しかもすばやく処理できるようになりました。すばらしい機能で、とても気に入っています」(戸田社長)。
CATIA環境でシミュレーションからNCデータ生成までできるため、データのインターフェースによるトラブルを気にする必要がない点も評価が高い。

CATIA V5は使いやすい

「CATIA V5のユーザーインターフェースはWindows完全準拠なので、Windowsの操作ができればほとんどの操作はできます。ヘルプはときたましか見ません。実は、CATIA V3、V4は講習を受けましたが、V5の講習は受けていないんです」(戸田社長)。
また、日本国内だけでなく海外のレースにも出かける多忙な日々を送る戸田社長だが、CATIAを使う時間があまりないにもかかわらず、操作で困ることはほとんどない。
戸田社長によれば、「今はエンジンの開発設計でエンジニアが手一杯なので、自分でもモデリングしています。もともと何でも自分でやる方ですが、ときどきしか使っていない私でもCATIA V5は操作が簡単」なのだそうだ。「現在でも他ソフトの評価版などで機能をチェックすることがありますが、それらはたいてい、機能は豊富でも操作が難し過ぎます」。
さらに、機能をわかりやすく示したアイコンをクリックすると表れるパネルの中で設定を行ったり、プロパティを確認できるなど、簡単に操作ができると強調し、「CATIA V5の考え方は、私の考え方とぴったり合っています。ほんとに信じられないくらい簡単に操作できます。3次元の理論がある程度わかっている人なら誰でも使えるでしょう。それから、あまりスマートでない手順であっても、ほとんどのことができてしまいます。これはすごいと思います」とコメントした。

CATIA V5 GPSで部品を解析

戸田レーシングでは、今年の1月にCATIA V5 GPSモジュールを導入し、エンジンの構成部品の解析を行っている。CATIA V4を使用していた頃から導入を考えていたモジュールだったが、それがやっと実現したのである。
V5 GPSも、わかりやすいGUIを提供しており、簡単な操作と高精度の解析機能が特徴である。モデリングをしながら気軽にV5 GPSのワークベンチを立ち上げ、解析を行うことができる。
戸田レーシングでは、コンロッド、カムシャフト、フライホイール、クランクシャフトなど、強度が重要な部品はすべて解析を行っている。従来は経験と勘で強度を設定していたが、今後は数値的なデータの裏付けによって、軽量化と耐久性を追求することができる。
「経験と勘によって得られた強度の数値と、V5 GPSの解析で得られたデータ結果は、おおむね合っています。実際に、経験上限界ギリギリを追求してレース中やベンチテスト中に壊れてしまった部品のモデルをV5 GPSの解析にかけて確認したところ、やはり強度が不足していました」(戸田社長)。
また、ミッションに関しても解析を行っているが、これは焼き入れによる影響が大きいので、解析は確認のために行っている。

先進のCATIAと加工機による先進の製品

戸田レーシングの先進性は、設計ツールであるCATIAの先進性と、加工に使用するNCマシンの先進性の統合によって生まれている。CADとCAMのシームレスな統合である。
例えば、エンジンの心臓部品の1つであるピストンは、従来は倣い加工機が主流だったが、加工技術の進歩により楕円形状を加工できるCNC旋盤が実現した。
その楕円形状のピストンを加工するCNC旋盤を開発したのは、戸田レーシングの近所にある工作機メーカーである。戸出レーシングはそのCNC旋盤を日本で初めて導入した。
ところがこの先端技術は日本国内ではまだ広く受け入れられておらず、欧米のレースの世界で一足先に主流となった。
「楕円を切削できるCNC旋盤が出た当時、日本のピストンメーカーは見向きもしなかったと聞いています。先に世界で認められて、今ではF1の世界ではほとんどのメーカーがこの旋盤を導入しています。それで、ようやく日本のピストンメーカーも導入するようになりました」(戸田社長)。

3次元測定器で最良の形状をデータ化、再利用

過去のレースやテストで信頼性や性能の面で高成績をマークしたエンジンは、その部品の3次元形状を3次元測定器を使用してスキャンし、点群データをCATIAに取り込んで保存し、研究開発およびより良い製品づくりに役立てている(点群データ化はファソテック社の「CATIA 点列データ変換プログラム(FGIUTIL)」を使用)。

今後の展開

「もっともっとCATIAを活用して、レースでよい結果を出すことと、より良い製品を開発・製造することが、近い将来での目標です」(戸田社長)。
また、CATIAへのご要望もいただいた。「現在はCATIA V5+3軸NC加工モジュールを活用して、レース用エンジ
ンおよびレース用パーツなどの削り出し製品(少量または単品生産)のさらなる納期短縮を目指していますが、V5用の5軸NC加工モジュールの開発をできるだけ早くお願いしたい(※1)。V4の5軸NC加工モジュールを早くV5のものに変更したいので」(戸田社長)。
「さらに、現在は開発納期短縮のため、CATIA V5によるSTLデータで造形モデルから試作製品を作成していますが、今後はコストも含めてこのプロセスを実用レベルに持っていきたいと思っています」(戸田社長)。
最後に、戸田社長の30年来の夢を教えていただいた。
「CATIAを使って、自分の手でエンジンと車体(シャーシ十ボディ)、ダンパーなどをトータルに設計して、レーシングカーでなく公道を走ることができるロードカーをつくって、自分で走らせることが夢です。実際には売れなくても、1台だけでもかまわない。これは死ぬまでに絶対に実現したい夢です。技術的には十分なので、仕事の合問にコツコツ作業する時間をつくること、そして宝くじが当たって、資金的にこの夢を実現できるように祈っています(笑)」(戸田社長)。
少年のような目をして微笑みながらそう語る戸田社長の表情に、レースカーとcATIAに心底惚れ込んだ人の情熱を見た。
※1:CATIA V5R6 マルチアクシス・サーフェス・マシニング2(MMG)のリリースにより、5軸NC加工に対応した。

「ユーザー広場」にも、当社設計部の池田のコメントが載っています。
株式会社戸田レーシング
設計部 池田 始さん

レース用、およびアフターマーケット用自動車部品の設計が私の業務です。具体的には、ピストン、カムシャフト、コンロッド、クランクシャフト、フライホイール、ショックアブソーバーなどの部品を設計しています。
CATIA歴は今年で10年になります。初めて使用したのは当社に初導入されたCATIA V3R2で、最初に設計したのは、レース用エンジンのシリンダーヘッドに空けたポートを、マシニングセンターで研磨するために必要な3次元形状の元となるサーフェスでした。

このポートは断面が真円から長円に変化しながらダクトのように曲がっています。V3の頃のCATIAは、まだ動作が不安定なところもあり、ハードウェアの性能も現在の水準からすると圧倒的に低かったため、スプラインをデフォームしてスムージングを行う作業に何分もかかっていました。また、モデルをシェーディング表示にした状態で、方向を変えるために回転させると、しばらく待たされたりしていました。これらは現在のCATIAでは考えられないことです。

そのほか、全体をモデリングしたものとしてはフォーミュラー力一の5連ミッションがあります。CATlAはV4になってからソリッドの機能が格段に向上したため、私の設計もソリッドモデリングが主体になりました。

現在はCATIA V5R5を使用していますが、ソリッドモデルから簡単に2次元図面を生成できるため、V5に移行してから図面の描き方が変わりました。V5のシェネレーティブ・ドラフティングはすばらしい機能です。

しかも、V5からWindowsNTにも対応したため、ビジュアルなプレゼンテーションの作成では、画面データ作成やグラフィックスソフトヘのデータ渡し、電子メールを介した受け渡しが簡単にできるようになりました。
しかしながら、V4から後退した機能もあります。例えば、鋳肌やスポンジの表現に有効なバンプマッピングやステッカーのマッピングはできません。(V5R6で実現)

ドローイングやスケッチャーに関しては、「ある直線に接し、かつある点を通る半径5ミリの円を描く」ような場合に、複数の手順を踏まなければなりません。また、円柱形状の断面を描く場合、センターラインからの半径を入力しますが、半径を計算するための電卓が手放せません。数値入力フィールドに計算機能があると便利なのですが。

CATlAV5からユーザーインタフェースが完全に日本語になり、操作が直感的に理解できるようになりました。その上、CATIA V5はトータルなソリューションなので、モジュールを追加すればピストンやコンロッド等の力学的な挙動解析まで行うことができ、試作コストの低減を実現できます。これはほかのCADにない優れたところです。今後は、CATlAV5でエンジン、シャーシ、ボディのデザイン設計といったトータルな設計を手掛けていきたいと考えています。